M細胞(microfold cell)
生き物にとって、外部から侵入して来る細菌やウイルス等の異物に都の様に対処するかが、
自分の生命維持に係わる重要な事柄になります。
細菌やウイルス等の異物が好き勝手に自分の体の中で増殖して毒素を振り撒けば、
体内のバランスを崩し病気になるのは日の目を見るより明らかです。
その為に、私たちヒトをはじめとしたほとんどの生物には「免疫」という機能が備わっています。
もちろん生物といっても動物もいれば植物、菌類もいますし、単細胞から私たちの様に何十兆個もの細胞で構成されている
多細胞生物もいますから、免疫系もそれぞれに単純な物から複雑なものまで色々な形態があるようです。
この中でも私たちヒトをはじめとした哺乳類等は、かなり高度で複雑な免疫系を備えていますが、
これでもまだ完全とは言えないようです。
何といってもこの世の中には、未だ知られていないものも含めれば数え切れないほどの細菌やウィルス、
寄生虫等の「異物」が蠢いていて、何時でも私たちに襲い掛かってこれるように隙をうかがっているのです。
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この高度で複雑な免疫系を出来るだけ100%に近い状態で力が発揮できるようにしておくという事が、
せっかく高度な免疫系を持って生まれた私たちに出来る継続的な健康への第一歩ではないでしょうか?
ただ残念なことに、持って生まれたその状態を維持するだけでは免疫力を100%の力で発揮できませんし、
重ねて残念な事には、その持って生まれた状態さえも年齢と共に下降の一途を辿ってしまうといわれています。
でも、私たちの高度で複雑な免疫系は、それを補う能力が与えられています。
それは持って生まれた免疫の能力を出来るだけ100%に近い状態に高めてくれたり、
年齢と共に衰えていく免疫の力を、力不足の分を経験で補ってくれる能力です。
その為にあるものが「獲得免疫」であり「M細胞」は獲得免疫を
効率よく高めるための重要な「部品」になります。
獲得免疫は強力な免疫のファクターなのです。
キラーT細胞や抗体を産生するB細胞を活性化出来る反面、
その過程の複雑さから活性化するまでに時間が掛かるという欠点がありますが、
一度その異物の抗原を認識してしまうと「免疫の記憶」として長期間に渡りその情報を持っている
T細胞やB細胞が生き残ることにより、
次に同じような異物が侵入した時には即座に強力な免疫の行動に移ることが出来るという、
複雑ですがその分頼りになる免疫系です。
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では「M細胞」は獲得免疫の中ではどの様な役割を担っているのでしょうか?
獲得免疫系では初めて出会った細菌やウイルス等の異物の抗原では力を発動できません。
あくまでも一度以上の接触が無ければ、そもそも免疫の記憶の「記憶」になりません。
ですから、初対面の相手には自然免疫系のマクロファージ等の貪食細胞が最初は相手をして、
それらの抗原提示を受けて初めてヘルパーT細胞が獲得免疫系を動かすのですが。
自然免疫系が動いてからそれを受けて獲得免疫系が働き出すと、普通の状態ではまだしも、
私たちの周囲で細菌やウイルスが流行している時では、獲得免疫系が
本格的に動き出した時は自分自身が感染して重篤化して手遅れだった、という可能性も出てきます。
そういう事が頻繁に起きてしまうと病原性を持っているO157等の食中毒菌やインフルエンザウイルスだけでなく、
それ程病原性が強くない雑菌のような物でも場合によっては命に係わることもあるでしょう。
※インフルエンザウイルスの場合は、種類が多く未だにヒトに感染していないものもあります。
獲得免疫系がいくら強力だとしても、今まで感染していないものに対しては動きようもないわけですから、
当然、そんなウイルスに感染した場合は、感染してから獲得免疫系の主役である
T細胞やB細胞が動き出すわけです。
そのため、新種のインフルエンザウイルスには特に注意を払わなければならないと考えられています。
そのためにあるのがM細胞を使って「普段から少しずつ細菌やウイルス等と接触をして、
それを片っ端から免疫の記憶にしてしまおう」
という獲得免疫系の独特な能力です。
この能力は一見効率が悪そうな感じですけれども、獲得免疫系のT細胞にしても
B細胞にしても何もせずに体内の血流にのって漂っているだけで寿命が来てしまうのなら、
抗原提示を受けて免疫記憶細胞として存在した方が良いでしょうし、
普通の環境に居る細菌やウイルス等の種類に見合うだけの数もあるのですから、
この方法でも考えようによっては割と効率が良いのかも知れません。
その、片っ端から免疫の記憶にする一環として、自分の中に細菌やウイルス等を
少しずつ取り込む「孔」としてM細胞は、腸管内では主にパイエル板の表面に点在していますし、
気道の粘膜上皮にも一部点在しています。
獲得免疫系としては、腸管内に入ってきた細菌やウイルス、
あるいは元からそこにいた常在菌などがM細胞を通過して体内に侵入してくるとM細胞の真下で樹状細胞が
待ち構えていて捕食してしまいます。
樹状細胞はこの異物の抗原をヘルパーT細胞に抗原提示をしてここから
各免疫細胞に情報が伝わって獲得免疫になるのです。
つまり、M細胞は「外来抗原(自己以外の物)を体内の免疫系へ誘導して、
獲得免疫系をより効率よく機能させる能力を持った細胞」といえるかも知れません。
先にも書きましたが細菌などの異物の種類は限りないと思えるほど多く存在しています。
しかし、少しでも多くの種類の抗原の情報を免疫の記憶細胞達が持っていれば、その分感染した時には役に立ちますし、
普段から病原性の低い細菌等の抗原に接していれば、
後日似た様な抗原を持った病原性の高い細菌が現れた時には、
ほんの少し手でも免疫が機能してくれる可能性もあるかも知れません。
普段から、不潔な環境に慣れろとは言いませんが、病気にならない程度には細菌に接触するように心がけていれば
「パンデミック」には無理でも、普通の風邪くらいならより軽く済むくらいの免疫力は身に付くかもしれません。
その為のM細胞だと思いますし、何といってもM細胞が多く存在している小腸周辺には体内の
免疫細胞の60〜70%が集中しているのですから、
これを効率よく活用しない手はありません。
それにある程度以上の年齢になったら、体力任せの自然免疫系だけでは対処できなくなってくるでしょうから、
齢をとったら体力関連は若者に任せて記憶免疫系の記憶力の方で健康を維持を心がけてはいかがでしょうか?
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