もともと長寿地域として知られていたコーカサス地方から、京都大学名誉教授の家森幸男博士が
1986年に現地でよく食べられていた粘り気のある自家製ヨーグルトの「種」を持ってきたことから始まります。
※コーカサス地方とは黒海とカスピ海に挟まれている山岳地帯として有名なコーカサス(カフカス)山脈が連なる地域であり、
以前グルジアといっていた現在のジョージアやロシアのチェチェン共和国などの国があるところで、
世界的にも長寿の人が多いと有名なところです。
1986年当時は、ソヴィエト連邦だったはずで、2014年に冬のオリンピック開催都市のソチもコーカサス山脈の西のはずれにあります。
この「種」は通常のヨーグルトよりも低温(常温)で増殖するので特別な設備などが必要ないという
特徴があったために、一般の家庭でも牛乳から手軽に作ることが出来た事もあり、当初は人づてだけで広まっていきました。
その為「家庭で作れる粘り気のあるヨーグルト」として覚えている方も多いと思います。
カスピ海ヨーグルトは、ヨーグルト特有の酸味も弱く、粘り気があるため食感が滑らかという特徴があるので、
ヨーグルト独特の酸味などが苦手な人でも食べやすいかも知れません。
カスピ海ヨーグルトの「種」は、乳酸菌である「クレモリス菌」と酢酸菌である「アセトバクター菌(アセトバクター属 Acetobacter) 」
で主に構成されています。
普通のヨーグルトなら乳酸菌に牛乳だけで出来てしまいそうですが、クレモリス菌の場合はクレモリス菌自体が嫌気性菌といって
空気がある環境では増殖しにくく乳酸に弱いという性質があるので、単に牛乳にクレモリス菌のみを入れても空気に触れている部分では
発酵が進まず、たとえ発酵しても自らが作り出した乳酸で弱ってしまうか死んでしまうのです。
アセトバクター菌はというと酢酸(お酢)を作り出す酢酸菌の仲間で空気が好きな好気性菌ですから、
種菌として牛乳に植えられるとクレモリス菌と空気の間に薄い膜の様に入り込み、
空気を遮断してクレモリス菌が増殖し易い環境を整えると考えられています。
またアセトバクター菌は乳酸を食べる性質も持っているため、クレモリス菌が作った乳酸のうち多過ぎる分を食べることで
クレモリス菌が弱ってしまうのを防ぐ効果も在るのです。
ヨーグルトを作る時に空気を遮断するような何の設備もない一般の家庭でもクレモリス菌でヨーグルトが簡単に
作れるのはアセトバクター菌がクレモリス菌のゆりかごの様になって守ってくれるおかげなのです。
学名では「ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ(亜種)・クレモリス・エフシー(FC)」と呼ぶ
乳酸菌の仲間なのですが、長いので少し省略して「クレモリス菌FC株」と呼ぶことが多いようです。
ラクトコッカス属の仲間に分類され乳酸のみを最終的に産生する
「ホモ乳酸発酵」タイプの球菌で、牛乳などに多くみられチーズやヨーグルトなどの発酵乳製品によく用いられてきた菌種で、
顕微鏡で見ると「連鎖球菌」なので小さな球状の形をした菌が連なっている様に見えます。
アセトバクター菌のところでも書いたように、嫌気性菌なので増殖には空気に触れない環境を必要とするのと、
自分で作った乳酸で自分が弱ってしまうという少々気難しいのが特徴なのです。
しかしながら世界的な長寿地域で食べられているヨーグルトの乳酸菌であることから、
生きたまま腸に届くプロバイオティクスとしての働きが大きいと期待され、
整腸作用の他にも、血糖値上昇抑制や血中コレステロール値改善効果、抗ストレスや抗アトピー性皮膚炎、
免疫活性効果などがあるものと考えられているようです。
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ラクトコッカス属 乳酸菌
クレモリス菌はプロバイオティクスとしての特徴の他に「菌体外多糖(EPS:Exopolysaccharide=エキソ ポリ サッカライド)」
という「カスピ海ヨーグルト」の特徴である粘り気のもとになっている成分を発酵過程で産生します。
ESPは高分子の多糖でヒトの胃液などの消化液では消化できない上に粘るという性質を持つために、
消化器官とくに腸管内の状態に良い影響を与えているのではと考えられています。
その消化液に強い粘りを持つESPは、クレモリス菌FC株そのものも胃液などで分解せずに
生きたまま腸まで運ぶのに役立っているのだとも言われています。
「プロバイオティクス」とは、生きたまま腸に届き体に良い働きをする乳酸菌等の善玉菌やそれらを含んでいる
発酵食品やヨーグルトなどの乳製品またはサプリメントの事です。
「クレモリス菌FC株」も生きたまま腸に届き体に良い働きをすると考えられていますからプロバイオティクス
としての条件を満たしていると考えてよいと思います。
クレモリス菌FC株のヒトの体に対する効果としては、
整腸作用として腸内環境(排便等)の改善
アレルギー症状の改善としてアトピー性皮膚炎、花粉症の抑制効果
免疫機能の活性化として感染症・インフルエンザ等の予防効果
中性脂肪の低減としてメタボ対策
血糖値上昇の抑制作用として糖尿病の予防・改善
などの免疫機能の活性化や生活習慣病の予防改善の効果が期待されています。