ラクトフェリン


ラクトフェリンとは?

ラクトフェリン(Lactoferrin:LF)
牛乳やヒトの母乳に含まれる糖タンパク質で、淡いピンク色だったため「赤色タンパク質(レッドプロテイン)」とも呼ばれていたこともありました。


Fe(鉄)との結合性が強く、周囲の環境から鉄を奪い取るほどです。
ただ、動物実験段階では鉄の含まれているラクトフェリンの方が生体への吸収性が優れているとの報告があります。


ひとことで言ってしまうと、
「抗菌活性をもつ鉄結合性蛋白質」ということですが、


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ではタンパク質とはどんなものなのでしょうか? タンパク質という名前はよく聞くことと思いますから名前は知っていると思います。


私たちの体の中では筋肉、血液、臓器、骨、酵素、ホルモン、免疫細胞等を作るために必要な成分の一つで、 言わばタンパク質は体の重要な材料で、ヒトの体の中では水分に次いで多いといわれています。


※ヒトの体では15〜16%前後がタンパク質で占められています。


ではこのタンパク質が何からできているのかといえば、多数のアミノ酸がつながって出来ている物なのです。


ヒトは体内で食物から吸収したタンパク質をいったんアミノ酸に分解吸収してから、 再びそのアミノ酸を合成してタンパク質合成して自分の体を作ったり代謝に使ったりしているのです。


ヒトの体を構成しているタンパク質に必要なアミノ酸は20種類ですが、このうち体内で合成できないアミノ酸は、 (つまり食物から必ず摂らなければならないアミノ酸は)幼児期に9種類、成人では8種類あるのですけれども、 当然どれが欠けても筋肉や骨が出来なくなりますから食事にはタンパク質の量だけではなく質や種類にも気をつけたいものです。


※人が必ず摂取しなければならないアミノ酸を「必須アミノ酸」と呼びますが、最近あちこちでいわれていますからご存知の方も多いと思います。


ラクトフェリンもタンパク質ですからヒトの体に重要な役割を果たしていると考えられています。
前述の鉄吸収の促進効果の他にも、抗菌抗ウイルス作用、免疫活性化作用、抗酸化作用、などや抗ガン、 脂質代謝改善、骨密度上昇と各種生理活性の作用に係わっていると報告がされています。


このラクトフェリンはヒトの場合は691アミノ酸から、牛の場合は689アミノ酸から成っています。


691アミノ酸
ヒトの母乳に含まれるラクトフェリンは691個のアミノ酸からなります。
Gly(Glysineグリシン)-Arg(Arginineアルギニン)〜Arg(Arginineアルギニン)-Lys(Lysineリジン)まで全部で691個繋がっています。


689アミノ酸
牛乳に含まれるラクトフェリンは689個のアミノ酸からなります。
Ala(Alanineアラニン)-Pro(Prolineプロリン)〜Thr(Tlreonineスレオニン)-Arg(Arginineアルギニン) まで全部で689個繋がっています。


※グリシン、アルギニン、リジン、アラニン、プロリン、スレオニンは全てアミノ酸の名前でヒトの体に必要な20種類の中に 入るものです。


ところでラクトフェリンは何故抗菌活性(細菌を増殖させない、或いは殺してしまう力)が強いのかというと、 細菌には種類によって多い少ないはありますが、その生育には「鉄(Fe)」を必要とします。


ラクトフェリンはこの鉄(イオン)との結合性が強いため、細菌が増殖に使う鉄を奪う事で 細菌の増殖を抑制するのです。
つまり細菌が使おうとする前にその鉄を奪ってしまえば、 細菌は自分が増殖するのに使えないイコール細菌は増殖できないわけです。


また、これとは別にグラム陰性菌の細胞壁外膜の主要構成成分であるリポ多糖(LPS)とも結合してしまうために、 その細胞壁の構造を脆弱にしてしまい、結果として細菌を殺してしまうのです。


細菌は構造が単純でしかも単細胞ですから細胞壁が壊れたり溶けたりすれば、 そのまま中身の細胞質が飛び出してしまいその時点で死んでしまうのです。
また、乳酸菌のページで書きましたが、 グラム陰性菌とはどちらかというと病原性の高い細菌が多くみられます。



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ラクトフェリンの特徴


授乳期の免疫性

ラクトフェリンはヒトの母乳に含まれているため、母乳栄養の新生児は授乳によりこれを受け取ることが可能です。


また、新生児は胎児のときに胎盤を通じて抗体である「免疫グロブリンG(IgG)」を、 授乳(特に初乳に多く含まれると言います)によって「分泌型免疫グロブリンA(pIgA)」を母体から取り込み外部からの異物から防御していますが、 当然これだけでは免疫系としては未発達で足りませんから、 授乳によってラクトフェリンも取り込みこれらと共闘して 免疫機能が未発達な新生児を細菌などの外敵から防御しているのだと考えられています。


その上、乳幼児期に必要な腸内細菌であるビフィズス菌や乳酸菌等は生育・増殖にそれ程多くの「鉄」を必要としないために、 ラクトフェリンが鉄を奪ってもビフィズス菌や乳酸菌の生育・増殖にあまり影響が出ないのです。


もちろん他の細菌の増殖はラクトフェリンが鉄を奪って抑制するため、 結果としては二重にビフィズス菌や乳酸菌等の増殖を促進していると考えられています。


こうして腸内環境をビフィズス菌乳酸菌等に 有利になるようにして、自らの免疫系が発達するまで母体から受け取った免疫と共に 自分自身を守っていると考えられる事から、幼児などにラクトフェリンを与えると、腸内フローラの改善や成長に有効だといわれています。



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抗ウイルス機能

ラクトフェリンはC型肝炎ウイルス(HCV)のエンベロープ(ウイルスを覆っている膜の様な物)に結合するため宿主の細胞内への 侵入を阻害し、またHCVの他B型肝炎ウイルス(HBV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、 ヒトサイトメガロウイルス(CMV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、などの複製阻害をすることがわかっています。


また、ノロウイルスやロタウイルスなどの感染防御や、症状緩和などにも効果が在るといわれています。




抗酸化機能

体内で過酸化水素からヒドロキシラジカルが産生されるときに鉄を触媒としますが、 ラクトフェリンにより体内で過剰な分の鉄イオンが結合してしまうためヒドロキシラジカルの産生を抑制してしまうといわれています。


※ヒドロキシラジカルとは活性酸素と呼ばれる分子種の中で最も反応性が高く、酸化力が強いため、糖、脂質、 タンパク質なとどあらゆるものと反応するため通常環境下では長時間存在することなく、生成後周囲のものと反応し消滅してしまいます。
つまり、物凄く強力な「活性酸素の中の活性酸素」と言う事です。
ヒドロキシラジカルは過酸化水素と二価鉄化合物の反応により生成されますが、ラクトフェリンが鉄を持って行ってしまえばその分、 当然生成が困難になってくる訳です。




免疫機能調整

ラクトフェリンは、B細胞T細胞の増殖を促し、 マクロファージの貪食作用やNK(ナチュラルキラー)細胞の 細胞障害作用を活性化し、鉄イオンとの結合による抗菌性を合わせ生体防御に貢献していると考えられます。


また動物実験段階ですが、腫瘍細胞にアポトーシスを誘導し、血管新生を阻害する効果が 在ることや、転移の抑制効果も報告されています。


※アポトーシスとは多細胞生物(例えばヒトがそうですネ)において、その個体を良い状態に保つため(ガン細胞などを) に細胞を自殺させること、つまりトカゲのしっぽ切りの様な事です。


※血管新生とはガン細胞などが激しい勢いで増殖するときに、大量の酸素や栄養が必要になってくるため 自らの方に血管を新しく呼び寄せる(新設する)ことを言います。これによりガン細胞は一気に増えていくといわれています。



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